プロにきく活用術

iDeCoとNISAをどう使い分ける?

資産形成を応援する制度としてよく取り上げられるのがiDeCoとNISA(少額投資非課税制度)です。2024年からNISA制度が恒久化・拡充されることを受けて、「NISAとiDeCoは、どう使い分けたらよいのか」「口座管理手数料がかかるiDeCoは加入しなくてもよいのか」といった質問を受けることが多くなりました。どのように考えたらよいか、ポイントをまとめました。

会社の退職給付制度を確認

会社員の方は勤務先の退職給付制度を確認しましょう。退職給付制度の1つとして企業型確定拠出年金(以下、企業型DC)が導入されている場合には、まずはその運用をしっかりと行いましょう。
理由は会社が掛金を出してくれ、口座管理手数料も会社持ちだからです(ただし、自分のお給料の一部を切り出して掛金にあてる「選択制DC」だと、給料が減って支払う保険料が減る代わり、将来受け取る厚生年金や障害年金、病気やケガで休む時に受け取れる傷病手当金などが減るため、選択制の場合には加入は慎重に考えましょう。その場合はiDeCoに加入する選択肢もあります)。

NISAとiDeCoの違い

まず、NISAとiDeCoの違いを整理しておきましょう。下図にNISAとiDeCoの概要をまとめました。
NISAはいつでも解約でき、誰でも、どんな用途でも利用できる、いわば万能型です。超長期で積立を続けて老後資金に使ったり、利益が出ている時に教育費や住宅の頭金として使ったりなど、資金を柔軟に利用できるのが特徴です。ただし、長期投資が前提なので、数年後に確実に必要になる資金の準備には向きません。
2024年からは年間投資額の上限や生涯投資枠が拡大し、売却後の非課税枠の再利用も可能になったことで、老後資金の準備にも十分利用できるようになりました。

一方、iDeCoは公的年金や企業の退職給付に上乗せして、自分で老後資金を形成していく制度。65歳未満で国民年金に加入している人が対象です(会社員・公務員は厚生年金に加入すると自動的に国民年金にも加入)。掛金の上限は会社員か自営業か、会社員でも勤め先の企業年金の有無や種類などによって異なります。対象商品は定期預金、保険、投資信託です。商品の預け替えはできますが、原則60歳まで現金を引き出すことができません。

  新しいNISA iDeCo
つみたて
投資枠
成長
投資枠
対象者 日本に住む、18歳以上の人 65歳未満の国民年金加入者
最低積立額 金融機関によって異なる 月額5000円以上
年間の非課税枠 年120万円 年240万円 6万円~
81万6000円
(合計360万円)
生涯投資枠
(非課税保有限度額)
1800万円
(成長投資枠はそのうち1200万円まで)
特になし
対象商品 一定の条件を満たす
投信・ETF
上場株式やETF、REIT、
株式投信など(※1)
定期預金、保険、投資信託
税優遇 拠出/
購入時
なし 非課税(掛金が所得控除の対象)
運用時 非課税 非課税(※2)
給付時 なし 原則課税
(退職所得控除や公的年金等控除が適用)
新規に投資できる期間 恒久化
(生涯投資枠1800万円の上限あり)
65歳になるまで(国民年金加入が条件)
引き出し いつでもできる 原則60歳以上
非課税で運用できる期間 無期限 75歳になるまで
口座管理手数料 なし 年間2000円程度~
  • 信託期間20年、毎月分配型、高レバレッジ型の投信・ETFは除外
  • 特別法人税が凍結されている

企業年金のない会社員や自営業はiDeCoでしっかり老後資金確保

NISAとiDeCoの使い分けですが、余裕があれば、両方活用することをおすすめします。まずはどちらか1つを利用する場合には目的や属性によって優先度が異なります。

原則60歳までお金を引き出せないiDeCoは「老後用の資産を作る」と目的がはっきりしています。退職給付制度が手厚くない(企業年金が導入されてない、退職一時金が少ない)中小・ベンチャー企業にお勤めの会社員や、公的年金が国民年金のみで退職金がない自営業・フリーランスの方などは優先的に活用してほしいと思います(自営業の方は付加年金と小規模企業共済も併せて活用しましょう)。

では、iDeCoよりNISAを優先したほうが良いのはどのようなケースでしょうか。
専業主婦・主夫のように所得控除の恩恵がない場合には、NISAを優先的に活用しましょう。その上で余裕があり、「将来働く可能性が高い」「元本確保型でなく、投信で運用したい」なら、iDeCoの利用を検討する、という順番になるでしょう。
充実した確定給付企業年金(以下、DB)がある会社にお勤めの方もまずはNISAの利用から始めてもよいかもしれません。2024年12月から企業年金のある会社員と公務員は、iDeCoの掛金の月額上限額が「5万5000円から企業型DCの事業主掛金やDBなどの他制度掛金相当額を差し引いた金額」(ただし上限は2万円)に統一されます。多くの人は従来よりも掛金が増えますが、一部会社掛金が多い、恵まれた人は逆にiDeCoの掛金が少なくなったり、iDeCoの積み立てができなくなったりする可能性があります(企業型DCに加入している場合には資産を移換することもできます)。DBが手厚い会社に勤めている場合にはNISAを優先し、24年12月までは様子をみるという選択肢もあるかもしれません。
また、最終的に積み上げてきた資産をどう受け取るか、具体的には(退職金や企業年金などを)受け取る順番や受け取り方などに留意する必要があります。

NISAとiDeCo、両制度のメリットとデメリットを十分に理解した上で、優先順位と活用を検討することが大切です。

(本コラムは、2023年9月末時点の情報を基に執筆したものです)